「うかうかしてると、取られるぞ」


ーー今のは一体、誰の声だろう。


染谷くんらしからぬ言動に高瀬くんも呆気に取られたようで、沈黙が訪れる。お腹に回されていた腕の力が時折きゅっと強まって、その度に息ができない。


「染谷、さっきから何言ってんだ……俺、松井とは付き合ってないんだけど」


言いにくそうに高瀬くんが言う。私の方を一瞬見たが、気まずそうに視線を逸らされた。


「……え?」


本当に? と至近距離から尋ねられて、私は何度も頷いた。


「本当に、付き合ってないから」


そんな私たちを見て、何がどうなってんだよ、と高瀬くんは呟いたのだが。

私は、どうしても高瀬くんに聞きたいことがあった。そもそも先に高瀬くんが言っていれば、染谷くんだって勘違いしなかったと思う。


「……高瀬くん、もしかして染谷くんにまだ言ってなかったの?」

「え、あ、そういや最近忙しかったからすっかり忘れてた……いや、本当、わざとじゃないから!」


必死に言い訳を始める高瀬くんに、私は信じられない、とこぼした。そして、真実を知らない染谷くんに向かって告げることにする。


「……高瀬くんの彼女は、うちの室長だよ」

「室長……?」


染谷くんは、固まったように動かない。その気持ちはよくわかる。何故なら聞かされたとき、私も全く同じ反応をしたからだ。