「昨日、松井は俺に用があって営業部に来てたんだろ」

「えっ」


急に私の話になり、鼓動が速くなる。
営業部へ行ったことを染谷くんが知っていたので驚いた。


「染谷くん、知ってたんだ」

「うん。俺、昨日はずっと社内にいたから」

「そうだったんだ……あれ?」


そこまで聞いて、染谷くんは昨日はずっと外出していたのではなかったかと思った。慣れないフロアに戸惑って聞き間違えたのかと一生懸命記憶を辿る。


「松井が来たのを見てた後輩から聞いて知ってさ。後で内線したんだけど、話し中でずっと繋がらなくて。帰りにそっち寄ったらもう帰ったって言うし」

「そうだったの?!」


まさか私の部署にまで来ていたとも知らずに、エントランスでストーカーまがいのことをしていたのだと思うと恥ずかしくなった。


「ごめん、私染谷くんが外出してるんだと勘違いしてたみたい」

「勘違いじゃないよ。仲川がそう言ったんだから」

「え……?」


そこで染谷くんは、バッグからペットボトルの水を出してぐいっと飲んだ。


「……仲川は嘘を吐いてたんだ」

「嘘? 私に?」

「うん。松井が来る直前まで、俺は自席にいたから。外出するなんてひと言も言ってない」


昨日の仲川さんを思い出す。ふわふわした癒し系の彼女。私、彼女に何かしてしまったのだろうか。


「仲川にさ、言ったんだ。〝どんな理由であれ、社会人として、そんなくだらないことをするな〟って」


しばらく黙った後、染谷くんは静かに言った。


「俺、後輩を泣かせたの、初めて」