「松井、もう少し話したいんだけど……いい?」


私としてはこれ以上染谷くんとふたりきりになるのは避けたかったが、有無を言わせない響きに逆らうことができなかった。

おとなしく元の席に着くと、染谷くんも椅子に座り直した。


「さっきのどういうこと? 誰にも言わないって、何の話?」


私の言葉が足りなかったようで、染谷くんに質問責めにされた。私の口から言うのは、正直辛いけれど、仕方がない。


「だって、付き合ってるよね? 染谷くんと仲川さんて」

「え?」

「昨日エントランスで見ちゃって。あ、覗くつもりじゃなかったの。本当に偶然だから!」


まさか染谷くんのことを張り込んで待っていたなんて言えなかった私は、両手を振って必死に言い訳した。染谷くんは、何か考えるようにして聞いてくる。


「見たって、どこから?」

「どこって、手を繋いで出て行くところだけど……」


自分で言ってものすごくみじめな気持ちになる。その前後に何か見てはいけないようなことでもしていたのかと思うと、もうこの話は終わらせたかった。


「……繋いでないし。松井、それ誤解」

「誤解?」


何だかよく分からずに顔を上げると、染谷くんの真剣な視線とぶつかった。