「ーーちゃんと薬飲んでる?」

「うん」


それならいいけど、と言いながら、染谷くんは一旦止めた手を動かし始めた。


「でさ、松井」

「う、うん」


片付けながらも流れるように切り出されて、思わず身構えた。


「昨日、何かあったよね?」


朝とは違い、断定するような言い方だ。染谷くんは、まっすぐ私を見る。


(やっぱり染谷くん、気付いていたんだ……)


うまく隠れたつもりだったけれど、入口のガラスかどこかに反射してうつり混んでしまっていたのかもしれないと、変な汗が出てきた。

どうやら染谷くんは、昨日の、私が染谷くんと仲川さんが一緒にいるところを見てしまったことについて言っているようだ。今日呼び出されたのは、口止めしたいからに違いない。

うちの会社は社内恋愛は禁止ではないのに、まだ公にしたくない事情があるのだろう。幸い私は、口の堅さには自信がある。


「大丈夫だよ、染谷くん」


私は、努めて明るく振る舞うことにした。こんな話をするのに、私の気持ちを知られるわけにはいかない。


「ーーえ?」


染谷くんがきょとんとした顔をして、私を見る。


「わ、私、誰にも言わないから! ……言う相手がいないってのもあるんだけど」


へへ、と笑って見せるけれど、染谷くんは表情を崩さなかった。気持ち悪いと思われたかもしれないけれど、もうどう思われたっていい。

私は、染谷くんがずっと笑っていてさえくれれば、それでーー。

その笑顔が自分に向けられないことが、今更ながら悲しいけれど。