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それからおよそ1時間後、何とか業務が終了した。データ入力が途中になってしまっているものは明日早く来て頑張ろうと切り替える。

自分のバッグに、机の上に置いてあった文房具をかき集めるように入れて、パソコンをシャットダウンする。こんな時に限ってOSの更新が走ってしまい、頭に血が上りそうになりながらじりじりとそれを待った。

完全にパソコンの画面が真っ黒になったのを見届けて、私は休憩ルームへと急いだ。もう帰ってくれていれば気が楽になるけれど、染谷くんはそうしないことをよく知っている。


ガチャリとドアを開けると、染谷くんはノートパソコンに向かっていた顔を上げた。


「お疲れ」

「染谷くん……っ、待たせちゃってごめんね」


私は染谷くんの笑顔を直視できないまま、近寄った。乱れた呼吸に気付かれないように、息を止める。
染谷くんは立ち上がって、自分の座っていた席の向かいの席へ座るよう促した。

すとんと座って小さく息を吐いていると、テーブルの上にお茶のペットボトルが置かれた。


「ごめん、急がせた?」

「あ、ありがとう……」


もごもごと呟きながら、ペットボトルの蓋を開けてひとくち飲むと、少し落ち着けた気がする。顔を上げると、楽しそうにしている染谷くんと目が合った。慌てて視線を下げる。

朝は機嫌が良くなくて、怒らせたかもと思ったけれど、今目の前にいるのはいつもの染谷くんだ。


「ごめんね、帰っててよかったのに」

「俺が言い出したんだから、気にしないで。……って言っても、松井は気にすると思うけど」


染谷くんは自分で言って小さく笑うと、パソコンを閉じてそのままバッグにしまい始めた。その仕草を眺めながら、このまま時間が止まればいいのに、と思ってしまう。

こうやって染谷くんと話せるのは、今日で最後になるような気がしたからだ。