「何言ってんだよ」


呆れたような長いため息の後、染谷くんはいつもより小さい声で話し出す。手のひらはまだ、私の額に乗ったままだ。伝わる体温が心地良い。


「自惚れかも知れないけどさ。俺、松井とは結構仲良いつもりなんだ。同期の中でも、よく話す方だし」


そんなことを言われるとは思っていなかったので、素直に嬉しかった。入社時の義務感で話しかけてくれていた訳ではなかったんだと思うと、ほっとする。
続けて染谷くんは、予想外のことを口にした。


「俺にも言えない? そういうの」

「え」

「助け合おうって、言ったよね」


初対面の口約束がまだ有効だということに驚いた。もう何年も前のことなのに、そのセリフを聞いただけであの時の記憶が鮮やかに色付いていく。


「でも私、染谷くんのことは助けられないし……」


対等でないことが悲しいと言うと、染谷くんは笑った。


「助けてもらってるよ、いつも」


嘘だ。
嘘を吐いてまで優しくして欲しいなんて思わない。そこまで気を遣われるのが辛くて、涙が出そうになった。


それでも、染谷くんは。
今までに見たことのないくらい真剣な目をしていた。とても嘘なんて吐きそうにないくらいの、澄んだ瞳。