「強情だな。……いいや、このまま連れて行く」


何も言わずに突っ立ったままの私に業を煮やしたのか、染谷くんはごく自然に私の腰に手を回して密着してきた。


「えっ、ちょっと、染谷くん! 大丈夫だってば」


染谷くんのにおいがする。突然の出来事に、うまく呼吸ができなくなった。染谷くんはそのまま、私の耳元に口を寄せる。


「……松井。隠しても無駄だから」


誰にも聞こえないくらい小さな、だけど怒ったような怖い声で囁いてきた。


「隠すって、私、そんな」

「いい加減にしろよ。そんな芝居で俺のこと騙せると思ってるのか」


どうしてこんなに染谷くんが怒っているのかわからない。
お腹は痛いし、憧れの人には怒られるしで、とても悲しくなった。


「すみません、急に具合悪くなったみたいで。俺、コイツを医務室へ連れて行きます」


染谷くんは、さっきまで一緒にいた先輩や同僚へ断ると、私の腰を抱いたまま歩き出した。


「ねえ、私自分で歩けるからっ……!」


みんなこっちを見ている。恥ずかしくて、今すぐ染谷くんのそばから離れたいのに。


「担がれたくなきゃ、おとなしくついてきて」


私の方は見ずにそう言うと、早足でずんずん歩いていく。
ガッチリ抱えられているので仕方なく、ついて行くしかなかった。