急に舞い込んできたデートのお誘いに私はただただ夢見心地だ。ドアへ向かう足取りがふわふわと落ち着かない。

私の隣を歩く染谷くんが、ため息混じりに困ったような声を出した。


「さっき松井のとこの室長にからかわれた」

「室長に? 何て言われたの?」


私の声にぴたりと立ち止まり、振り向いた染谷くんは、口を開きかけて閉じた。ほんのりと耳が赤くなっている。


「……やっぱり教えない」


何それ! と思わず言わずにはいられない回答に、気になって気になって仕方がなかったが、とても答えてくれそうにない。
この話は後で張本人の室長にじっくり聞くことにしようと私は心に決めた。

エレベーター前で染谷くんと一旦別れて、自席へ向かう私の足取りは軽い。


ーー誕生日は過ぎてしまったけれど、改めてお祝いしよう。

アポ無しのプレゼントにアポ無しのデート。
予測できないことだらけで、私にとっては刺激的な毎日だ。


願わくば、来年もその先も、ずっとこうしてドキドキしていたい。

染谷くんの優しい顔も、驚いた顔も、一番近くで見ていたい。


それが最近わがままになった私の、贅沢な願い。