「……ごめん。まさかそんなことが噂になっていたとは」


はあ、と大きなため息を吐いた染谷くんに、小さく謝罪を受けた。

ゆっくりと振り向いて私と目を合わせた染谷くんは、少しだけ顔が赤い。


「……嬉しくてつい」

「……」


そんな呟きは反則だと思ったが、染谷くんに負けじと真っ赤になったであろう私が反論できるはずもなく。


「ううん。使ってもらえて、光栄デス……」


いつもまっすぐ気持ちをぶつけてきてくれる染谷くんに振り回されっぱなしの私の気持ちは、まだまだ落ち着きそうにない。心臓の音が聞こえてしまうのではないかと思うほどに早鐘を打っている。


しばらくそのまま見つめ合う状態になっていたが、私はまだ先日の謝罪をしていなかったことを思い出し、再び口を開いた。


「あの……染谷くん、この前はカフェ代払ってもらっちゃってごめんね。私、そこまで気が回らなくて……」


すると、え? という口の形をした染谷くんは、少し考えるようにまばたきをした後に、真剣な顔で言った。


「俺が無理やり連れて行ったんだし、気にするなよ。……あと松井、そういうときは〝ありがとう〟だと嬉しい」

「……あ、ありがとう」

「どういたしまして」


私が言い方を〝ありがとう〟に変えた途端に穏やかな表情を見せる染谷くんに、私はもう一度心の中でお礼を言った。

いつも私のネガティブな思考や、後ろ向きの発言は染谷くんをげんなりさせているに違いない。それでも染谷くんは私の話を全部聞いてくれるし、的確な助言もくれるのだ。


(すごい。言い方を変えただけで優しい気持ちになれた。やっぱり染谷くんて、魔法使いみたいーー。)