「ほら松井、俺の言った通りだろ?」

「……あ」


見覚えのあるライトブルーのネクタイは、染谷くん愛用の紺色スーツに良く合っていた。


(うわあ、想像以上に似合ってる……)


その姿を見るのは初めてで、鼓動がドクドクと速くなる。何だかとんでもないことをしてしまったように思えてきて、ひとり焦った。


染谷くんは、そんな私たちの方に訝しげに視線を送ってくる。


「高瀬の言った通りって?」

「いや? あの几帳面な染谷サンが、最近毎日同じネクタイしてるっていう噂を松井に教えてただけだけど?」

「なっ……」


まさかそんなことが噂になっているとは思いも寄らなかったのか、先程の無表情が一瞬で崩れて戸惑った様子の染谷くん。らしくもなく頭をかいて、視線をさまよわせている。


「松井、いや、これは、その……」

「う、うん」


その態度から、高瀬くんの言った〝毎日同じネクタイをしている〟という噂はきっと事実なのだろう。それを理解すると急激に照れが押し寄せてきて、染谷くんの顔がまともに見られなくなった。私は、目をそらしつつも必死に返事をする。


そんな私たちを交互に見やる、にやにやしっぱなしの高瀬くんは、優雅に締めの言葉を述べた。


「松井、染谷をもっと人間らしくしてやって。……それじゃあ、後はお2人でごゆっくり」


ーーバタン。


こうして私たちはまんまと2人きりにさせられたのだった。