染谷くんは、何かを思い出したようにそのままふと真顔に戻る。


「あれ、そう言えば松井の話って」

「あっ!」


のんびりしている場合ではなかった。染谷くんは忙しい合間を縫って時間を作ってくれたのだ。

私は慌ててバッグの中から包みを取り出して、染谷くんへ向かって差し出した。幼稚園の時にこうやって卒園証書を園長先生から受け取ったな、なんてフラッシュバックしながら。


「染谷くん。たっ、誕生日おめでとう」

「……、ありがとう」


笑いが混じっているような、そんな声がしたと同時に、手の中の重さが急に軽くなった。そっと顔を上げると、包みをしげしげと眺める染谷くんの姿がある。


「どうかした?」

「ごめん、本当は何となくそうかなって。さっき会社で詰め寄られたときに、松井のバッグからこのリボンが見えてさ。うわーヤバいって思ったらにやけたよ」

「えっ、見えてた?!」


まさかまたバッグを全開にしていたなんて。我ながら、何という詰めの甘さ。しかもあんなに必死に迫って恥ずかしい。


「でも外に連れて来て良かった。松井のそんな顔を他の人に見られたら俺、嫉妬しそう」

「え」


そんな顔とは一体どんな顔なのか。思わず私は両手で自分の顔を押さえる。少し熱を帯びた頬に触れていると、染谷くんが笑っていた。