「この期末の忙しさで部内の空気が大分ピリピリしていたから、毎日気が重くてさ。でも松井と話して、課長も気が休まったんじゃないかな」

「まさか。私はひとことしか話してないよ」

「それなら、そのひとことが効いたんだよ。あんな笑顔久しぶりに見た」


ありがとう、と逆にお礼を言われてしまい、戸惑ってしまった。何も知らない染谷くんに、罪悪感から俯いたまま謝る。


「お礼を言われることなんて何も……。私、営業部に行けば染谷くんに会えるかもって無理に用事を作ってもらったようなものだから」

「え?」

「ごめんこんな小心者で……」


まっすぐな瞳に耐えきれずに事実を話してしまった。たった数秒間でも、沈黙が怖い。


「……松井。顔上げて」


言われた通り顔を上げると、染谷くんは明るい表情をしていた。


「本当、松井を他の誰かに取られないように一層努力しないと」

「取られる……って、何でそうなるの?!」

「だってそんな風に遠まわしに〝会いたかった〟なんて言われたら、落ちるだろ?」

「お、落ち……」


ーーやはり染谷くんはものすごく疲れているに違いない。