やけに機嫌の良い染谷くんを視界に捉えながらも、私の緊張はピークに達しようとしていた。この、飲み物が出来るまでの微妙な間は、妙にそわそわしてしまう。

ーー目の前には、ずっと会いたかった染谷くんがいる。


「ごめんね染谷くん、忙しいのに」

「いや、俺の方こそさっきはごめん。松井に迷惑かけるって頭では分かってたんだけど」


先ほどの高嶋課長との一件には、確かに驚いた。染谷くんは普段人に啖呵を切ったりするタイプではないから、尚更。


「変な誤解をされて、他の男が松井にちょっかい出すかもって思ったら焦った」

「なっ……」

「結果的に余裕無いところ見せちゃったよな。はは」


ーーやはり染谷くんは相当疲れているのかもしれない。

それは、目の下にうっすらと陰が見えることからも見て取れた。


(私、浮かれすぎていて周りが見えていなかったな。営業部に押しかける格好になってしまったし)


染谷くんの仕事が落ち着いてからにすればよかったと後悔し始めていた頃、注文していたた飲み物がやってきた。このカフェではランチタイム以外に注文すると、ホットティーはポットごと運ばれてくるようだ。

染谷くんの視線はパッチワークがかわいらしいティーポットカバーに向けられていて、興味深そうに見ている。


「へえ、そういうの初めて見た」

「染谷くんはいつもコーヒーだもんね」


ポットからカップへお茶を移し替えて蒸らしていると、オレンジのいい香りがしてきた。それはコーヒーを飲んでいた染谷くんの方へも漂っていたらしい。


「柑橘系? 癒されるね」


松井ほどじゃないけど、なんて笑顔で言ってくる。やけに顔が火照るのは湯気のせいにしてしまおうと開き直った私は、ハーブティーに口を付けた。