あの時、汐里が悠人を好きだと知って“スキナヒト”の話が出来なかったんだ。3年前の出来事。ふとしたときに思い出してしまう。とても鮮明に。

「なあ、人の話聞いてんの?」
悠人の言葉に、我に返る。何聞かれてたんだけっ。あっ、そうだ。あたしが汐里に“スキナヒト”の話をしたことないってことだっけ。
「悠人こそ。スキナヒトいないの?」
どう答えればいいかわからなくなった私は話を反らすために、悠人へ話題を移す。
「はっ?俺?」
いきなり慌てはじめる悠人。自分から振っといて。なに慌ててんだか。
「そうだよ。あたしにばっかり質問しないで。」
「俺は・・・。」
さっきまでの勢いが消えた。顔の向きを変えずに、目だけで悠人を見つめる。誰かいるの?
「……バスケ!」
「へっ?」
想像してない答えに拍子抜けしてしまう。
「今はバスケだけかなー。」
「ふぅ〜ん。」
バスケね。
「な、なんだよ。」
「悠人、モテるのに。」
またチラッと目だけで悠人を見る。
「モテねぇし。」
「あたし知ってるんだから。悠人だって、色んな子に告られてんじゃん。」
そうだよ。自分だって、しょっちゅう呼び出されてるじゃん。
「はっ?俺、いつ言った!?」
「わからない方が可笑しいよ。女の子に呼び出されて告白されない方が変でしょ。バスケしか考えられない、とか言って振ってるんでしょ?」
悠人の方に身を乗り出して、少しからかってみる。
「……いいじゃん、別に。俺が何て断ろうと。」
そう言って、そっぽ向いてしまった。なによ。
悠人から黒板へと視線を移す。時計の針は8時30分を示そうとしている。