「汐里が、悠人のこと好きなの。」
「だから諦めたの?」
静かに頷く。
「だからって、どうして。」
「汐里は、あたしのことを凄く考えてくれる。いつだって、あたしを優先してくれるの。きっと……悠人を好きって言ったら身を引くと思う。それだけは、させたくない。」
「真帆……」
「だからね、悠人への気持ちには鍵をかけたの。」
「鍵……」
「もう好きじゃないよ。悠人とはだだの幼なじみ。」
「…本当にそれでいいの?」
「うん…あたしは、汐里の方が大切だから。」
体にちょっとした振動が走って、ぬくもりを感じる。美佳があたしを優しく抱き締めてくれた。
「もう。なんでこんなに大事なこと、早く話してくれなかったの?」
「ごめん。」
「でも…やっと話してくれて嬉しい。ありがとう。ずっと心配だったんだよ。真帆が悠人を見る顔が寂しそうだったから。」
あたしは、美佳の顔を見た。少しだけ瞳に涙が浮かんでる。
「美佳、ありがとう。」
「ううん。ちょっとキツいこと言ってごめんね。」
「大丈夫。」
「教室戻ろうか。」
「うん!」

美佳はとても暖かい人だ。他人の喜びや痛みを感じようとしてくれる。わかっていたのに、自分のしまい込んだ気持ちを抉りたくなくて、本当は伝えなきゃならなかったことを黙っていた。でも、気付いてくれてたんだね。
心の扉に出来た隙間に、暖かい風が吹いた気がした。