SHRが終わって、1限の数学のテストの最中。私のシャーペンの芯は、すり減るどころかきれいのままである。
名前を書いて、「よしっ、解くぞ」って思っていたけれど全く解けない。中学校の時にもっと勉強しておけばよかったなんていまさら後悔しても、遅い。
まだあと40分もある…。
文系科目が得意な私にとって、数学や科学はまったく脳が働かない。授業中は、常に意識が飛んでおり、数字さえも音楽の音符のように感じることもある。
テスト用紙に印刷されているカッコ、プラス、マイナス、3、5。これを計算したところで、何になるんだろう?
わかる問題を解いてみても、こうだったけ…?とどこか自信が無い。シャーペンを手先でくるくる回す。SHRを思い出す。
教卓から、私の席は前から2番目で近い。中学校の時の先生が言っていた言葉を思い出した。「一番前って、寝てても気づかないのよ。やっぱり後ろの方がきになっちゃうし。特に2、3番目は見ちゃうわね。」
私は、今先生が見やすい位置にいる。特に意識していなくても、視界に入っちゃうところに。
そんなことを考えていると、しっかりしなきゃって思ってもう一度テスト用紙とにらめっこをする。そして、シャーペンをしっかり握ろうとしたその時
コトッ。
シンとしていた教室に、私の手先から流れるようにシャーペンが真っ逆さまに落ちた。
「あっ…」
みんなの視線がこっちに向くようで恥ずかしくて、体が熱くなる。足音がこちらに向かって聞こえてくる。
「はい。」
シャーペンが顔の前に差し出された。
テスト監督の雅治先生が拾ってくれた。
「ありがとうございます。」
小声でいう私に、先生は右手で拳を作り強く握った。きっと、「がんばれ」という意味なのだと思った。
ほぼ白紙の答案用紙。今すぐ、全部解きたい気持ちになる。先生に褒めてほしいからだ。
まだ、あと40分もあるって思っていた気持ちは、あと10分しかないに変わる。
好きな人に言われる言葉や、何気ない行動は人の気持ちをいとも簡単に変えてしまう。
「残り、5分です。見直しをしてください。」
雅治先生が落ち着いた優しい声でいう。
私は、問題を解くのを諦めて答案用紙の欄外に数字を書く。
『15 11 42 05 32 61 22 31 』
こ い に お ち ま し た

「試験時間終了です。答案用紙を回収してください。」

先生、私の心の中で散らばっている気持ちも回収してください。