体育館に行くと、椅子が全校生徒分びっしりと並べられている。新入生は、一番前で隣のクラスにいるさとみは背筋をぴしっとして座っている。
「緊張してきたぁ。。」
心の中がまた不安になる。前には、葵ちゃんがいるから思わず手を握ってしまう。さとみがいたら、「ほら、笑顔っ」って言って頬をさわってくれるのに…
「未来ちゃん?大丈夫?」
「緊張しちゃって、手握っちゃった。。」
「なれない場所って、緊張するもんね。でも、大丈夫っ。私がいるもん!」
「葵ちゃん…」
高校に来て、もうこんな友達ができたんだって思うと本当に幸せだと思う。
「そういえば、これから担任の先生が発表されるんだよね?」
スカートの折れ目がぐしゃぐしちゃにならないように手で抑えながら椅子に座る。
「そうなの?どんな先生になるのかな…」
「面白い先生がいいねっ」
そう言うと葵ちゃんは、前髪を手でささっと直してさとみのようにぴしっと座る。
私も、昨日より早く起きてなれないコテを使ってセットした髪型がくずれないように、ぴしっと座る。
年上の人が好きな髪型ってなんだろう…やっぱり、大人っぽい髪型かなぁ。うーん、王道ポニーテール?昨日は、そんなことばかりを考えていた。
先生のことが好きだと自覚したからだ。
「あっ、あの先生が担任なんだ〜。」
隣から、葵ちゃんの声が聞こえた。私が昨日の出来事を思い出している間に、入学式のプログラムは担任紹介までいっていたようだ。
私は、担任の先生を見ようと少しだけ腰を上げる。そして、私の目が捉えたのはー…
先生であり好きな人だった。
校長先生から、名前が呼ばれる。
「C組みの担任は、松田雅治先生です。」
頭の中で何度も、名前を確認する。
まつだまさはる。マツダマサハル。
雅治先生ー…
じっと見つめてしまう。緊張して、少しだけ顔が赤い先生を。
「担任になりました、1年間よろしくお願いします。この後、HRがあるので入学式が終わったらまた教室に戻ってください。」
そう言うと、先生はまた教員専用の椅子がある場所に戻っていった。
でも、もし錯覚でなかったら。
先生は、連絡事項を伝える前に私に小さく「あんまり見ないでね、恥ずかしがり屋だから」と笑って言った。
出会ってから、まだ2日なのにこのままだと答案用紙に『好きになりました』って書いてしまいそうだ。