そんな会話があったとも知らずに響はボーッと自由に泳ぐ魚達を眺めている

(…本当に、懐かしいな……)

小さい頃から、自由に泳ぎまわる魚が羨ましいと思っていた

決められた道ではなく、自分が泳ぎたい場所を泳ぐ魚に

「…響、」

「ん?どうしたの、圭」

「……いや、思ったより楽しんでるみたいだな」

隣に立つ圭の言葉に響は微かに寂しそうな表情をしてから口を開く

「まぁ、ね。来たなら思いっきり楽しもうと思って」

「そうか…」

「…………ねぇ、なんで圭は水族館を選んだの?」

「水族館を選んだ理由、か」

「うん」

響の問い掛けに少し考えたような仕草をして、圭はフッと儚げな笑みをした

「……俺は、産まれてからずっと水族館に来た事がなかったんだ」

「っえ?」

「親が厳しい人で、どっかに遊びに行くなんてしたことなかった。…でも、族に入って仲間が出来てからは彼方此方と連れて行かれたんだよ。……水族館は、アイツらにとっては暇なんだろ…だから今日、行くならココだと思った」

いつもより多く話す圭の言葉は、今日が特別なものだと痛いほど伝わるモノだった

適当に決めた訳ではなかったのだ

「…そっ、か。なら、ちゃんと楽しまないとねっ」

「あぁ。けど……お前が居るなら、俺はどんな場所でも構わない」

「っ……!」

「今日は、お前が居るからココにしたってのもあんだよ。初めての水族館を響と来たくて」

「~~~~~っな!?よくもそんなハズいこと平気で言えるなっ」

圭の有り得ない発言に響は目を見開いて驚くと、その表情を見た圭は今までにない柔らかい顔になる

「─────お前が、好きだ。響」

「ッ!!?」

「俺はいつまでも待つつもりだ。お前が振り向くまで…ずっと」

「…け、い……?」

「お前の抱えてるモンが何かは知らない。でも、それも含めてお前が欲しいんだ」

「……………」

「待つって言ったけど、正直言って俺は待つのは嫌いだ。だから、振り向くまで攻めて攻めまくってやるから……覚悟しとけよ?」

突然の告白と宣戦布告をする圭の瞳は真剣そのもので、妖しく微笑む口元は吸い寄せられそうなほど魅力的に見えてしまう

互いの顔の距離はかなり近い

このままキスでもしそうな、そんな距離が微かに縮まってくる気さえする

だが、その瞬間

響の脳内にフラッシュバックが起きた

『響、ずっと愛してる』

『もう……好きだけじゃこの気持ちは抑えきれない…』

同じ場所で、同じように愛の告白をしてくれた大切な人の面影

今でもハッキリ感じる手の温もりに優しく、けれど強く抱き締めてくるたくましい腕の感触を……

忘れてはイケない

あの人との思い出……

忘れてはイケない

己がどんなに罪を重ねたかを

気がつけば、響の瞳から生暖かい何かが零れ落ちた

それを見た圭はギョッとした顔になり、目を見開いている

「っひ、びき…?」

「…圭、無理だよ。だって私は……っ私、は─────・・・」











“だって私は、全ての愛をあの人にあげてしまったから”










罪悪感と胸が締め付けられそうな痛みに足元がフラついた響は、一瞬にして誰かにその背中を支えられて視界を手で覆われていた