あの、挑発するような瞳と表情は今の達巳にとって理性を揺すられるモノだったらしい
無理もない
初めて響と出会って喧嘩をするキッカケになった時と同じだったのだから
今思えば、その時からずっと響に惹かれていたのだ
男だと思い込んでいた時も、女だと明かされた時も達巳の気持ちはあまり変わらなかった
ただ変わったのだとすれば、男だと思い込んでいた時のモヤモヤが女だと分かった時、ストンと欠けたピースがハマった瞬間の感覚だけ
コイツの側に居たい、もっと色々知りたい、コイツより強くなりたいと思うのは変わらずで、寧ろその想いはますます強まり別の意味だと気付いた
だから尚更、後悔もした時もある
女だと明かされた時に好きだと言えば良かっただとか、次いつ会えるか聞いておけばだとか、連絡先を聞けば良かっただとかが
でも、そう思わない方が普通なんだ
その日からずっと会えなくなるなんて、誰も想像していなかったのだから
少し離れた場所で魚を眺める響を見つめながら、達巳はそんな事を考えていた
「……達巳って、案外分かりやすいよな」
「はっ?てか、いつ隣に来たんだよ空太」
「んー、三分前くらい?」
フと話し掛けられて我に返る達巳に、青木はクスクスと可笑しそうに笑って「気づかなかった?」と付け足す
「………良いのかよ?彼女ほったらかして」
「良くはないけど、今トイレに行って居ないから」
「あーそう」
確かに居ないなと今更気付く達巳に青木はまたクスクスと笑う
「…んだよ」
「いや、それほど響ちゃんに夢中だったんたなぁって」
「……………煩い。あと、響ちゃんとかさっき言ってなかったろ」
「そりゃあ彼女が居る前で他の女の名前言わないよ」
「あっそ。ならこれからも言うなよ。彼女が居ようが居なかろうが」
「じゃあ圭はいいんだ?」
「っアイツは、ライバルだから仕方ねえだろ!」
挑発的に聞いてくる青木に苛立ち多少声が大きくなって、慌てて口元を隠すとタイミング良く莉子が戻って来たらしく周りをキョロキョロと見渡している
「…ホラ、彼女がお前探してんぞ」
「言われなくても行くよ。……お前も行けよ」
見透かされたように言われ、達巳は「分かってる」と言いたげな眼差しで青木を睨み付けた