「………圭、」
「あ?」
「“俺”達は何故こんな所にいるのでしょう…」
呆然と立ち尽くす響の言葉に圭は迷う事なく即答で答えた
「デートっつったらここだろ?」
「そりゃあ定番なんすけど……デートスポットは他にもあるよな?てか、来るまであったじゃん。公園とか遊園地とか映画館とか…」
「もうチケットは買い済みだから却下」
「………はなっから拒否権はないんだな…;;」
「仕方ねぇだろ。休日はどこも人が多くて身動きしずれぇんだよ」
まぁ確かに圭は街を歩くだけでも目立つし、このメンツなら仕方ないとも言える
だが、響にとってはそんな事は別に気にするモノじゃない
(…………まさか、またここに来るなんて思ってなかった…)
目の前に佇む建物には見覚えがあった
一度目は家族と、二度目は仲間達と、そして三度目は………輝と二人で来た事がある
仲間達も輝とも、また来ようと約束をしてそれっきり来れなくなった苦い思い出のある水族館だ
もう来る事はないと思っていた矢先に、また来る羽目になろうとは思っていなかった響にとっては、あまりいい気分ではない
しかし、ここまで来てやっぱり帰ると言えば怪しまれるのは目に見えている
響は仕方なく帰る選択を諦める事にした
「……嫌だったか」
「んっ?あぁ、いやそうじゃないけど…ただ懐かしいなと思ってただけ」
「…懐かしい?」
「前に何度か来た事あるから」
「…っ………そうか」
懐かしい、ただそれだけの表情には見えない響の顔に圭は一度開き掛けた口を閉ざして、何事もなかったようにそうかと言った
本音を言えば「本当に懐かしいだけなのか?」とか「誰と来たんだ?」などを言いたい気持ちがある
けれど、それを言ってしまえば響の表情が変わってしまいそうで……今以上に切なそうになりそうで言えなかった
(……いつか、響から自分の話をしてくれるのを待つしかない……そう分かっていても、こんなにもどかしく感じるのは響だけだ)