莉子はそう言うけれど、多分きっと青木は仕方なく承諾したんだろうと思った
自分のリーダーには逆らえないのだろう
なんだか申し訳ない気持ちが出てくるが、だからといって圭に会うつもりはない
ご飯を食べ終えた私は、荷物を鞄の中に入れていた
その時、何かが鞄の中からポロリと落ちてしまった
「…あっ」
「どうしたの?………腕時計??」
時計を持って固まっていた私の横から莉子が覗き込んで来て、それをジッと見つめていた
「珍しいね、響が腕時計持ってるなんて」
「……私のじゃないよ」
「え?じゃあ、いったい誰の…」
「ごめん。私、トイレ行きたいから先行くね」
「あっ、ちょっと響!?」
莉子が後ろから呼ぶ声は聞こえたが、私は振り返る事もしないで中庭から立ち去った
そんな事より、私は動揺していたのだ
何故、この時計が今ここにあるのだろうと
これはずっと家に置いてあった筈…なのにどうして?
今朝の出来事を私は順々に思い出していた
「…そう言えば…」
確か家を出る時にバタバタしていた
その時に戸棚の上のモノを適当に掴んだ記憶がある
きっとその時に紛れ込んだのだろうか
そうでなければ辻褄が合わない
「……はぁ」
こんな事になるのなら、タンスの中などに入れて置けば良かったと後から後悔する私だが、それをしなかった理由は分かっていた
自分が大切にしていた人の形見だから、あの日の事を忘れない為だからだと
奪われた時間が戻ってくる筈はない
それでも私は、もしも帰れるなら”あの日のあの時間“に帰りたいと少しばかり思っている
「………ごめん……”輝“…ごめんね……」
時計を握りしめて私はしゃがんで泣いた
今思えば、私が泣いたのは久々かもしれない
ここ一年間は、考える事すら避けていたから
暫く泣いた私は、時計をスカートのポケットに閉まって午後の授業をサボり屋上に来ていた
屋上は基本的に立ち入り禁止なのだが、以前私がピッキングで開けた以来たまにここに来るのだ
……気晴らしに煙草を吸う為に
莉子からラインが来ていたが、私はそれを見る気分にはなれなかった
ここの所、上手く感情がコントロールを出来ない時がある
それも圭に会ってからだ
彼は私の心を乱す
彼がいなかった時はもっと上手く隠せていた感情までもが隠せなくなってきている
「…はぁ……面倒くさいなぁ…」
壁に凭れながら煙草を吸って空をみると、優しい風と青々とした空が心を安定させていく
先程、スカートのポケットに閉まった時計をまた取り出して眺める
時間は零時を指して止まっている
この時計は”あの日“からずっと止まったまま動かないでいる
何故だか分からないけれど、時間がそこでストップしているようで私の心は沈んでしまう
輝(アキラ)の時間が止まっているのか、はたまた私自身の時間が止まっているのかは分からない
けれど、そんなことを考えていても何も解決しない
だって”あの日“には戻れないのだから