少しぐらい髪が伸びていようとも『冬樹』の雰囲気は(ぬぐ)えない気がする。

だからこそ、思い切って着てみたのだけど…。

周囲の人々が自分を笑って見ているような気さえしてくるのだから、憂鬱(ゆううつ)にもなるというモノだ。


『大丈夫よっ。絶対、夏樹ちゃんに似合うから。私が太鼓判を押すのだから絶対よっ。どーんと構えて、堂々と女の子していらっしゃい♪』

満面の笑顔で話していた清香の顔が浮かぶ。


(…何の根拠があって、そんなコト言うんだ…)


夏樹は再び小さく溜息を吐くと、肩を落とした。



駅へと到着すると、待ち合わせ場所には既に悠里と桜が待っていた。

愛美も夏樹と同じ電車だったらしく、結局待ち合わせ時間よりも早く全員が集合する形になった。


「悠里と桜は随分早く来てたんだね?これでも早く着いた方なのに…」

成蘭高校へと向かって歩きながら夏樹が問うと、悠里と桜は顔を見合わせながら笑って言った。

「だって楽しみで待ちきれなかったんだもんっ」

「そうそう、ついつい早く出ちゃったんだよねー」

笑顔一杯の二人に、夏樹も愛美もつられて笑みを浮かべた。

「私、今日は絶対っ!吹奏楽の西川先輩に会いに行くんだっ」

意気込んで語る桜に、悠里も大きく頷くと、

「ファイトだよ!」ガッツポーズで応える。

「桜ちゃんも悠里ちゃんも、お目当ての先輩がいるんだっけ?」