返した生徒手帳を両手に掴んだまま項垂(うなだ)れている夏樹に。

そんな顔をして欲しくなくて、愛美は笑顔を向けると言った。

「何で夏樹ちゃんが謝るの?夏樹ちゃんは何も悪くないよ。私だって、あれが夏樹ちゃんだったなんて気付かなかったんだし」

「…愛美…」



確かに、騙そうとして隠していた訳ではないけれど、こんな形で本当のことを話すことになるなんて思ってもみなかった夏樹は、どうしても罪悪感が(ぬぐ)えずにいた。

(だって、愛美は…もしかしたら『恋』をしていたかも知れないのに…)

それを自分がぶち壊してしまったような気がして辛いのだ。

だが…。


「それより、私…嬉しいんだ」

不意に腕をそっと掴まれて。

視線を上げると、横で愛美が本当に嬉しそうに微笑んでいた。

「私…夏樹ちゃんに、二度も助けて貰ったんだよ。今思えば、これは友達になる運命だったのかも知れないって思わない?」

「…愛美」

「…ね?私、夏樹ちゃんと友達になれて嬉しいよ。そして、夏樹ちゃんは私の恩人だよ。優しくて勇気のある友達を持てて誇りに思うよ」

その眩しい程の笑顔に。

「…ありがと…」

夏樹もつられるように、はにかんだ微笑みを浮かべるのだった。