丁度、私の自転車が置いてある場所に彼は何をするでもなくただ立ち尽くしていた

ただ立っているだけでも絵になる彼に、少しだけ戸惑った私はスッと言葉が出なくて詰まりそうになりながら聞いた

けれどその質問の応えは返って来なかった

「何してんの?」

無表情男はまた同じ言葉を投げてくるので、私は溜め息混じりに仕方なく応える

「別に。今から帰ろうと思いまして」

「どこに?」

「はっ?……普通に家にですが」

本当は家になんて帰らないし、帰る気すらないが面倒くさいので適当に話を作って早くココから離れようと思った

しかし私の言葉をあまり信じていないのか、ただ単に無表情だからか彼の感情が読めないでいる

(…ちょっと、分かったなら早く退いて欲しいんだけどっ)

「……なぁ、」

「なんです?早く帰りたいんですけど」

「お前、毎日楽しい?」

無表情男は何故だか会って間もない私にそんな言葉を掛けた

勿論の事、私は言っている意味が一瞬解らなくて目をパチクリと瞬きさせるだけ

私が口を開く前に、彼はまた言葉を投げてくる

「なんか、お前の顔みてると”救わなきゃ“と思って」

「…………余計なお世話ですね」

「なら、生きてて楽しいか?」

彼はどうしてそんな事を聞くんだろうと思うと同時に私はどうして直ぐに嘘でも「楽しい」と言えなかったのかと不思議だった

毎日がつまらないと思う事はあれど、楽しくないとは思ってない筈だったのに

多分、彼の瞳が私の奥にある何かを見透かしているように思えたかも知れない

何故、とは分からないけれど彼の瞳から目を逸らす事が出来ないでいた

「…本当に、いい迷惑ですよ」

やっと彼の瞳から逸らせた私は、それだけを口にするのが精一杯だったと思う