まったく爽やかでない『そいつ』が現れたのは、初夏の晴れ渡る爽やかな朝。


「行ってきます」


ここは四国の田舎町。


公立高校2年の櫻咲希(サクラ サキ)は、いつも通りの寝坊でひとり、少し急いで自転車で走っていた。


やや小柄で童顔。目鼻立ちははっきりした可愛い顔立ち。


手入れの行き届いた黒髪は背中まで伸びたサラサラのストレート。


5キロ離れた高校まで20分掛かったが、今年テニス部のキャプテンになり、運動も兼ねていた。


顧問の守村(モリムラ)先生が緊急入院してしまい、もちろん他の部員もサポートはしてくれるが、当面ひとりで頑張らなくてはいけなかった。


舗装されているとはいえ、田舎の道は古くなって、昨夜の大雨で所どころに水溜まりがあった。


途中、山道を抜けると開けた道に出る。


気をつけて走っていたけれど、後ろから近づいた車に気がつかなかった。


なぜか、水溜まりに突っ込む形で急ブレーキを掛けた。


これでもかと頭から泥水を浴びせられてしまった咲希。


「きゃあっ!?」