「サーシャは、かえってくるよ」
イーザが振り返ると、身なりの粗末な5歳ぐらいの男の子がいた。
全く気配がなかったので、いつからそこに立っていたのかはわからない。
不気味なほど生気を感じられない子どもは、一目で奴隷だとわかった。
かつての、幼いイーザ自身をみているような感覚に襲われる。
「マッダーラも、しっている。
サーシャがときどき、ぬけだすこと」
「…」
「むかし、サーシャが おしえてくれた。
サーシャは、からだをキレイにしにいくのと、
どうぶつや、おはなたちと おしゃべりしにいくんだって」
子ども騙しもいいところだ。
「サーシャは、かえってくるよ。
やさしいから。」
はじめの言葉を繰り返し、男の子は、まっすぐにイーザをみた。
「だから、もうなかに もどろう。
ここには、あまりいないほうがいい」
「…」
「くらい よると、死んだ なかまに
こころを、たべられてしまうよ」
男の子は、ニコリともせずそういってから、重い門を開け、姿を消した。
イーザは、僅かに片眉をあげて、もう一度空をみてから、
男の子に続いて、中に入った。

