語り屋の 語りたる 語り物




どこからともなく、哀愁漂う民族的な音楽が流れ始め、
サーシャは、それにあわせてゆっくりとステップを踏み、踊りだした。

その姿はあまりにも妖艶で美しかった。

あれほど熱狂的だった会場が静まり返って、サーシャに釘付けになった。


川で噎(む)せ、マッダーラに蹂躙されていた、か弱な女と同一人物とは思えないほどに、彼女から迸(ほとばし)る生命力は強かった。


曲のテンポがだんだんと速くなる。

サーシャの舞もそれにつられて激しくなり、バリエーションを加えながら狂ったように踊った。

全身から溢れる官能的な色気は増すばかりだ。

そして絶頂かと思われる時に、
向かいの柵が開き、獰猛(どうもう)な唸り声と共に、何かが勢いよく飛び出してきた。


サーシャを目の前にして、臨戦態勢をとるその姿に、客席が湧いた。
イーザも思わず眉をしかめた。


猛獣のなかでも最悪最強な
百獣の王、ライオンだった。


「まさかー」
アムスが声を枯らした。

ライオンは相当飢えているのだろう。サーシャに向かって真っ直ぐ飛びついた。