語り屋の 語りたる 語り物



「…狂ってる」



部屋を後にして、思わず呟いたであろう、アムスの言葉に、イーザは冷笑した。

「その感覚を忘れるなよ。
今の世の中はあれが領主になるほどには腐っているからな」

納得いかない、というようにアムスは首を振った。

「何であんなやつが…」


「その疑問も忘れるなよ」

もう1人が冷やかした。


一番背の低い商人、ルンは、ふと真面目な顔に戻って口を開いた。


「まぁ俺たちがやっていることも、よく似たものさ。同じ穴の狢だ」


アムスが黙っていると、イーザも目を遠くにして、低い声で


「何が正気で何がまともか。

基準は人と時代によりけりだが、

その疑問を問い続けることそのものが、正気でまともだと思っておけ。

それを放棄した時が最後だ。」

と言ってから、

視線の先の別の人物に「世話になる」と短く挨拶をした。


商人4人の話はそこで途切れた。

目の前に現れた、マッダーラの付き人に従って、コロシアムの外へと出ていった。