~MAOU LIFE 8日目~

死神「今日は仕事も早く終わったし、魔王様の方も書類仕事を予想以上に早く終わらせてくれましたし…」

ふぅっ…と息を吐き、腕と背を伸ばすデス。

死神「明日は太陽の日…。さっさと帰りましょうかね」

デスは机の上の資料をサッとまとめると、荷物を持って自宅(寮)に帰った。部屋は201号室だ。

死神「ただいまー…と言っても私以外誰もいないが…」

部屋の明かりをつけ、お湯を沸かし紅茶を淹れる。そして1人用のソファーに座り、机に向かった。

死神「今日はこれを徹夜でやりますか」

机の上には魔界最強の陸上兵機『魔神機ジャバウォック』…の作りかけのプラモデルがあった。

死神「しかし…だいぶコレクションが増えたなー…これの他にあと2体は買わなければならないし…」

デスがふと部屋の壁一面に設置してあるガラスラック(コレクション置き場)を眺めると、綺麗に並べられた無数のプラモデルがあった。いま作っている作品も置けるかどうか分からない程に。

死神「おっと…眺めていないで早く続きをしよう。明日の朝には着色まで持っていきたいしな…」

デスはパーツを丁寧にニッパーで外し、ヤスリをかけ、接着剤で慎重に組み立てていく。

死神「…やはりジャバウォックはこの武骨なシルエットが兵機本来のフォルムの原点を感じさせてくれるな……しかし最新鋭かつ最大級の火力を持つ口内魔力ビーム砲台もまた、ロマンがあっていい……」

ブツブツと独り言を呟きながら黙々とプラモデルを作る。一人の世界に浸っていると、突然ドアの呼び鈴が鳴り、彼を現実に引き戻した。

死神「…チッ、良いところなのに…!誰だ…私の至福の時間を邪魔する奴は…………はーい!」イライラ…

不機嫌な顔をして頭をかきながら玄関に向かうデス。寮のドアにはドアスコープが付いていない為、そのまま鍵を開けドアを開く。

死神「はい!どちら様ですかっ!」
魔王妃「きゃっ…!あ…あの、申し訳ありません…お取り込み中でしたか…?」

苛つきながら訪問者に返事をしたが、その相手は真下に住むアーシュだった。

死神「あっ…!これは王妃様!申し訳ありません!いかがされましたか?」
魔王妃「いえ…お気になさらないで下さい。あの、今日夕食を作り過ぎてしまって…その、デス殿がまだ食事を摂られてなければ…あの、良かったら受け取って下さい」

アーシュが両手で大きなドンブリ皿を持っている。中にはこんもりと山盛りになった野菜炒めが入っていた。

死神「頂いても宜しいので…?………それではありがたく頂戴致します。わざわざ申し訳ありません」ペコリ…
魔王妃「いえ、デス殿にはいつもお世話になっておりますので…では、失礼致します」ペコッ…パタパタ…

お辞儀をして小走りで部屋の前から去っていくアーシュは甘く良い香りがした。その香りを目で追った後、デスは玄関のドアを閉め、受け取ったドンブリ皿を台所に持っていった。

死神「そう言えばまだ夕食を食べていなかったな…ありがたい」

デスは皿のラップを外し、立ったまま食べ始めた。部屋は完全にプラモデル製作部屋になっている為、食事は立ち食いが基本なのだ。

死神「相変わらず王妃様は料理が美味いな…しかし使っている野菜が3種類のみで肉が無しとは…どれだけ節約されているんだろうか…」

アーシュの野菜炒めを食べながらデスはふと思った。

死神「そもそも給料に関しては魔王様が一番、王妃様が次に多く、生活も何不自由していない筈だが…何故こんなにも食事が質素で、普段の服装も庶民的な物を好むのだろうか…?」

デスは魔王一家の私生活を思い返してみる。記憶の中では何千年も昔から、特にゼクスは今と同じ様な感じで生活している。デスは色々思い返していると、段々アーシュが不憫に思えてきた。自分がもし魔王だったら豪邸を建てて、良い服(実際には一応一流ブランド服)を着させて、食べ物も好きな物を好きなだけ食べさせてあげて、エステも通わせて、何よりも仕事を最低限におさえ基本は豪邸でゆっくりさせて(以下略)…と色々想像した。そして段々と悲しくなった。

死神「モグモグ……ゴクン……しかし…この野菜炒め、本当に美味いなー…」ジワッ…

料理を食べ終わるか終わらないかという辺りで、デスはふいに目頭が熱くなった。

死神「…私は一人で何をやっているのだろうか…?私も妻…いや、それ以前に恋人が欲しいな…」

~MAOU LIFE 8日目~ 終