MAOU LIFE

~MAOU LIFE 24日目~

魔王「………で?」
夢魔「なんでしょう、坊ちゃま?」ニコッ…
魔王「いつまで一緒にいるつもりだ?」
夢魔「坊ちゃまのお仕事が終わるまで…ですよ?」ニコッ…

ゼクスは極凍地獄の視察に来ていた。その後ろにはデスではなく、モフモフのフード付コートをメイド服の上から羽織ったリリムが立っていた。デスが人間界に本業(死神業)出張で不在の為、お目付役として乳母で世話役のリリムをつけていた。

魔王「チッ…コキュートスと久方振りに氷上釣りでもしようかと思っていたのに…デスの奴め…(小声)」
夢魔「何か仰いましたか?」
魔王「いや?何でも無い…しかし今日はとんでもない吹雪だな…氷結牢獄の入り口が埋もれて見当たらん」
夢魔「このままだと遭難してしまいますね…」

以前にもゼクスは視察中に遭難した事が多々ある。

魔王「今度雪にも埋もれる事のない、わかりやすい目印を建設せねばな…」
夢魔「坊ちゃま、ここ…先ほども通りませんでしたか?」

以前遭難した際に目印となる建造物を建設したが、豪雪で埋もれてしまってわからなくなっていた為、ゼクスは改善策を練っていた。だがそれに気を取られ、道に迷ってしまった。辺りを見回しても同じ景色、地獄用エレベーターの乗り場すらも見失った。

魔王「………かまくら作るか」

ゼクスは吹雪を防ぐ為のかまくらを作り始めた。2時間くらいで3人が寝れる位のスペースのかまくらと、かまくらが埋もれない為の雪壁を作り上げた。

夢魔「温かいですねー。フフッ…坊ちゃまと2人きりになるのは何時振りでしょうか」ニコニコ…
魔王「さぁな」
夢魔「確かあれはまだ坊ちゃまが小学部年少科の頃でしたね。お城に雪が積もってて…お庭で一緒にかまくら作って…」
魔王「そんな事あったか?」
夢魔「えぇ、あの時は先代の魔王様とお妃様が出張で魔王城不在で…。寂しがっておいでかと思いきや、意外にも坊ちゃまは元気いっぱいで…城内でも城外でも悪戯三昧」クスクス…
魔王「あー………確かその時親父の玉座を剣で叩き割って、後日城中追い回された記憶が…」
夢魔「はい、その時ですよ。先代魔王様に捕まっても坊ちゃまは反省する所か、魔王様に反撃して城までも半壊させてましたね…本当に懐かしく感じます」ニコッ…
魔王「我ながらろくな事しとらんな…」
夢魔「でも先代魔王様も初代魔王様も、坊ちゃまの事を誉めてましたよ?将来は必ず史上最強の魔王になる、と」
魔王「……むず痒いからやめてくれ」
夢魔「私もその頃からずっと、坊ちゃまは偉大な魔王様になると思っておりました」

リリムの思い出話で妙に痒くなり、ゼクスはポリポリと頭をかく。

夢魔「…救助はいつ頃でしょうね?」
魔王「早くても4日後だろう。3日経ってもコキュートスに会えなければ遭難したと見なして、奴が城に連絡する事になっている。ここでは携帯の電波が入らんのでな」
夢魔「という事はその間坊ちゃまと2人きりの時間を過ごせるという事ですね」ニコニコ…

ゼクスの力なら上空まで飛び、剛剣で上の階層まで切り裂くという強行突破も可能であるが、真上の階層が灼熱地獄の為、地層を斬った際に溶岩が流れ落ち両地獄に被害が出る為にそれは出来ない。素直に救助を待つ他なかった。

夢魔「くしゅんっ…」
魔王「大丈夫か?ばぁや」バサッ…

かまくら内で火を焚いて身体を温めているが、濡れた服がまだ冷たく、リリムは少し震えていた。それをゼクスが片側の3枚の翼で優しく包んでやった。

夢魔「坊ちゃま…ありがとうございます。フフッ…あの時と一緒ですね」
魔王「?」
夢魔「かまくらを作ったり雪合戦したりして遊んだ後、2人ともビショビショで…次の日私が風邪を引いて寝込んでしまった時に坊ちゃまが看病して下さいましたよね。私がベッドで起き上がってスープを食べる際、後ろから私に抱きついて、その6枚の翼で寒くないようにと今のように包んで下さいました…」ニコ…
魔王「………大事な家族だからな」

リリムは優しい笑顔でゼクスに微笑みを向け、涙を滲ませた。

夢魔「本当に優しく立派な魔王様になられましたね…坊ちゃま」ジワ…
魔王「恥ずかしいからそれ以上言うな」

ゼクスは照れ臭そうにプイッとよそを向く。そんなゼクスにクスっと微笑みを浮かべるリリム。

夢魔「あの時、実は坊ちゃまにキュンとしたのは秘密です(心の声)」

リリムはゼクスの翼に顔を埋める。

夢魔「坊ちゃま…本当に逞しくなられました…」ドキドキ…
魔王「………グー」スピー…
夢魔「…って!坊ちゃま!?寝たらダメですよ!」ガックンガックン…
魔王「グー…よぉ…デス……こんなとこ……ろで…何をして…おる……?」スピー…
夢魔「坊ちゃまーーーー!!!見てはいけないものが…!!」アワワ…

リリムはゼクスの肩を掴んでガクガクと揺らして起こそうとするが、全く起きない。それどころか危ない寝言を発している。

魔王「なんだ……そっちに…行けば…良いのか…?」スピー…ムニャムニャ…
夢魔「ダメです!行ってはなりません!」
魔王「………って…行く訳ないだろうがぁ!」ガバッ…
夢魔「坊ちゃま!?」ホッ…

夢の中でゼクスはデスに手招きされ、着いていこうと見せかけ、反対方向に走って逃げたのだった。勿論、現実のデスはゼクスに干渉してはいない。

魔王「あの目は我に説教する時の目だ」
夢魔「…一体何の夢を。コホン……良いですか坊ちゃま、絶対に寝てはダメですよ?この地獄は寝たら最後、どんな悪魔ですらも魂が凍りついて目覚めなくなるんですから…」

正確には極凍地獄の管理人コキュートス以外の悪魔である。コキュートスは毎日たっぷり10時間は寝る。

魔王「そういえば昔親父もここで釣りの途中…」
夢魔「そうですよ!先代魔王様ですら凍りついたんですから!」
魔王「まぁ灼熱地獄の温泉に浮かべといたら勝手に起きたがな」

魔王一族は生命力も桁外れに高い。例え木っ端みじんに滅んだ様に見えても、すぐに復活する。

魔王「よって我も大丈夫だろう。一応じいさんと親父の魂を半分ずつ継承しておるし」
夢魔「そういう問題ではありません!坊ちゃまに何かあったら私は……王妃様やお嬢様に顔向け出来ません」メッ…
魔王「うむ…すまない…」セイザ…

それから何時間かおきに2人に睡魔に襲われた(主にゼクス)が、どうにか堪えていた。そして吹雪がやんだ5日後、2人は城の捜索隊に救助された。

夢魔「うっ…うっ…坊ちゃまが…」グス…
魔王「………」カチーン…
夢魔「最後のお言葉が『灼熱地獄の温泉にでも放りこんどいてくれ、それじゃおやすみ』でした…」グスッグスッ…

ゼクスは安らかな顔で凍りついていた。

~MAOU LIFE 24日目~ 終