~MAOU LIFE 19日目~

魔王「…すると三途の川の向こうからどんぶらこ…どんぶらこ…と、もの凄い形相のお婆さんが流されてきました」
魔王女「ほぷぅ!」ワクワク…
魔王「…少年がお婆さんを眺めていると、『なに見とんじゃワレェ!見せもんちゃうぞゴルァ!』とお婆さんが怒鳴りました」
魔王女「ほ、ほぷぅ!」ドキドキ…

ゼクスがシャルルを腹の上に乗せて絵本を読んでいた。ゼクスは相当眠いらしく、目が泳ぎ始め、声もガラガラだった。だが一方のシャルルは、ゼクスが読んでくれる絵本に夢中で目が輝いている。

魔王「少年は…お婆さんと…お爺さんと…オタクニートに………金を渡し…賽の河…原の鬼退治に……出掛けるのでし……グー…」
魔王女「ほぷぅ?」チョイチョイ…

絵本の終盤にきて、ついにゼクスが力尽きてしまった。シャルルはゼクスの頬をツンツンしてみるが、起きる気配がない。シャルルはぷぅと頬を膨らませ、ゼクスの頬やお腹をポンポン叩いたり、くすぐってみたりして起こそうとするが、やはり起きない。

魔王女「ほぷぅ…」ショボン

諦めてシャルルはゼクスの胸に耳を当てる形でしがみついてぼーっとし始めた。するとゼクスの鼓動がシャルルに催眠効果をもたらし、シャルルもいつの間にか眠りに落ちた。

魔王妃「あら?ゼクス様とシャルルたん、仲良くお昼寝してる…可愛い…」

アーシュは2人に毛布をかけて家事の続きをする。昼ご飯の後片付けに、洗濯、軽い掃除とあアーシュは次々に家事を終わらせていく。

魔王妃「さてと…一段落ついたし、漫画の続きを描かなきゃなー。締め切りも近いし…」

実はアーシュは作家の副業をしていた。エッセイ漫画と18禁漫画(BL)を描いている。どちらも連載期間は5000年と長く、前者はアニメにまでなっている。エッセイ漫画は魔王一家の日常をほぼノンフィクションで描いた『MAOU LIFE』という作品で、毎週太陽の日の夕方18時半から19時の間で放送されており、平均試聴率が高く、魔界の国民的アニメである。「ゼクスさん症候群」(太陽の日が終わってほしくないと強く思い、学校や会社に行きたくないという一種の鬱症状)という病名まで確立してしまう程。エッセイの内容としてはゼクス家の家族愛と恥を晒しており、ネタはゼクスの許可をあらかじめ取っている。

魔王妃『エッセイの前に…今日はBL漫画の仕上げを先に済ませておこうかな…』

BL漫画の方は主に天界の方で出版されており、少年と男の娘の学園青春(性春)ラブストーリーが描かれている。生々しい性表現が定評を集めている。ちなみに天使長リンデも1話から長年愛読しているが、アーシュが作家だという事は知らない。タイトルは『雌男子の愛し方』。

魔王妃「本当は普通の学園ラブストーリーを描きたかったんだけどなー…」

編集部の意向でBL物を描くように指示されており、何度も最終回の流れに持って行こうとするが、その度に引き伸ばす様に指示され、正直アーシュとしては嫌気がさしている。

魔王妃「はぁ…やっと終わったー…」

嫌々描いているBL漫画に疲れて、アーシュは隣で気持ち良さそうに寝ているゼクスとシャルルにぴったりと抱きつき、失った気力を充電し始めた。

魔王妃「はぅ~ゼクス様~シャルルた~ん」モキュモキュ…ハァハァ…

アーシュは2人に抱きついて幸せな気持ちになり、いつの間にかそのまま寝入ってしまった。

魔王「おいアーシュ、飯だぞー?」
魔王妃「うーん…ゼクス様~…」ウヘヘ…

結局そのまま夜まで寝てしまい、先に起きたゼクスはシャルルをおんぶして、夕食の支度をしてアーシュを起こそうとするが全く起きない。幸せそうな顔でヨダレを垂らしながら寝言を言っている様子に、ゼクスは思わず携帯で写真を撮った。

魔王「仕方ない、先に食うからな?シャルル、飯だぞー」
魔王女「ほぷぅ♪」ゴキュゴキュ…

ゼクスはシャルルの口にほ乳瓶をくわえさせながら、自分も作ったオムライス(巻いてるタイプ)を食べる。ゼクスが食べ終わるのと同時にシャルルも飲み終わり、ゼクスはシャルルの背中を軽く叩いてゲップをさせる。

魔王「シャルル、少し休んだら風呂入るぞ?」
魔王女「ほぷぅ」ニコニコ

ゼクスはアーシュに毛布をかけ直し、食器とほ乳瓶を洗い、アーシュの分のオムライスにラップをかけて冷蔵庫に入れる。そして卓袱台の上に「冷蔵庫に飯を入れてある。チンして食え」と書き置きの紙を置き、シャルルと風呂に入る。

魔王「シャルル、どうだー」
魔王女「ほぷぅ!」キャッキャッ…

ゼクスは自分とシャルルの髪の毛をシャンプーで逆立たせ色んな形にしたり、シャンプーでシャボン玉を作ったりして遊んでいる。シャルルも楽しそうにはしゃいでいた。

魔王「10数えたら上がるからな?」
魔王女「ほぷぅ」ハーイ…

浴槽内でシャルルを膝に乗せ、肩まで浸からせて数を数える。10まで数えて風呂から上がり、自分とシャルルの髪と身体を乾かして着替える。アーシュはまだ寝ているようだ。顔の横に小さな池が出来ている。

魔王「さて、シャルル。そろそろ寝る時間だ。本を読んでやろう」
魔王女「ほぷぅ!ほぷぅ!」キャッキャッ…

ゼクスはシャルルを腹の上に乗せ、絵本を読む。

魔王「…男の父親は言いました。『働かないならこの家を出ていけ!』。男は部屋の中から言いました。『いやだおー!漏れは一生スネをペロペロして生きていくんだお!(キリッ)』。すると父親は…」
魔王女「ほ、ほぷぅ…」ドキドキ…
魔王「『出て行かないと言うならこっちにも考えがある!』と父親は言い、男の部屋の前から去っていきました」
魔王女「ほぷぅ」ワクワク…
魔王「次の日の夜、男が目覚め、台所に向かうと、いる筈の両親の姿がありません。部屋も真っ暗でした」

シャルルはゼクスの読み聞かせにワクワクしながら聞いていたが、終盤辺りでうとうとしてそのまま寝てしまった。

魔王「そう、男は初めて………寝たか」
魔王女「ほぷぅ…」スピー…

ゼクスはシャルルをベビーベッドに移動させ、自分は寝ているアーシュの横に並んで寝転び、そのまま眠りについた。

魔王妃「しまった!寝ちゃった!ゼクス様とシャルルたんのご飯!」ハッ…

アーシュは急に起き上がり、ハッとした。時間は深夜1時半。ふと隣を見ると、ゼクスが寝ており、シャルルはベビーベッドで寝ていた。そして卓袱台に目をやると書き置きを発見し、ご飯をレンチンして食べて、食後にデザートも食べる。

魔王妃「ゼクス様…ありがとうございます」ウルッ…

こうして今日も夜は更け、アーシュの体重も増えていく。

~MAOU LIFE 19日目~ 終