~MAOU LIFE 1日目~

「魔王様ー!!勇者一行が城に乗り込んできました!!」

武装した悪魔達が魔王の間に慌ただしく駆けてきた。

「魔王様!!我々では抑えられ…ぐあっ!!!」

悪魔達は斬り捨てられ、魔王の間の扉がバンッと勢いよく開けられた。

勇者「覚悟しろ!!!魔王ゼクス!!!今こそお前を倒し、世界にへい…」
魔王「静かにしろ。やっといま娘が寝たとこだったのに…」
魔王女「…ふえぇぇ(泣)」
魔王「おー、よしよし、すまないすまない…」
勇者「あ…」

魔王と呼ばれた人物が赤子を抱っこして、寝かしつけようとあやしはじめた。

魔王「…で?何の用だ?(小声)」

ギロリと鋭い眼光とともに、殺気の籠もった小声を勇者にむけた。

勇者「魔王ゼクス!!!お前を…」
魔王「しー…!!」
勇者「…スミマセン(小声)」

勇者が再び大声を出したので、魔王は指を口に当て、勇者に注意を促した。

勇者「魔王ゼクス!!!今日こそはお前を倒して世界に平和を取り戻す!!!(小声)」
魔王「いま娘を寝かすのと書類作成で忙しいからまた今度な(小声)」
勇者「…えっ?(小声)」
僧侶「…なんかイメージと違う(小声)」
戦士「書類作成って…何の?(小声)」

僧侶の言う通り、魔王は見た目と行動に大きなギャップがあった。ゼクスの見た目は巨大な6本6枚の角と翼、そして誰しもが魔王と感じるであろう邪悪な鎧とオーラ。だが、その魔王は愛娘を片手で抱っこし、空いた手で剣ではなくガラガラを振り真剣にあやしている。そんな姿に勇者を除く勇者一行は戸惑いながらもある決断をした。

賢者「ねぇ…勇者、今日は引き上げましょ?(小声)」
勇者「いやいやいや!ここにたどり着くまでにいったい何回死んだのかわかってんのか!?(小声)」
戦士「確かに薬草食いまくってアイテムも残り少ないし、正直もったいない気はするけど、でも奴は子守中だ。諦めよう…(小声)」
勇者「ちょっと待て!子守中だからなんなんだ!?奴のせいで世界は闇に包まれて…(小声)」
僧侶「独身で彼女すらいない勇者にはわからないかもしれないけど、子供を寝かしつけるのって案外大変なのよ?(小声&遠い目)」
勇者「なんだその人を憐れむような目は!?俺は絶対に諦めない!奴を…魔王ゼクスを倒して世界を平和に…(小声)」
魔王「だから貴様は独身で彼女いない歴以下略なのだ(小声&真顔)」
勇者「うるさい!!!俺だって顔さえ良ければ…って何でお前が混じってんだよ!!!!!!」
魔王女「…ふえぇぇ…えぐっえぐっ…」
勇者「…あ」

勇者がつい大声を出してしまい、それに気付いたが、時既に遅かった。

魔王「静かにしろって言ってんでしょ!!!!!」

カッ………!!!

ゼクスの持つガラガラから巨大な黒紫の炎が放たれた。それは見事に勇者に直撃、勇者はこの世から塵も残さず消え去った。

魔王女「びえぇぇぇん!」
魔王「よしよし、すまなかったなー、もう怖くないぞー、ベロベロバー!ほーらシャルルの大好きなガラガラだぞー」

ゼクスは愛娘シャルルに必死でガラガラを振り、魔王の威厳もへったくれもない変顔を向けた。

戦士「勇者…だから言わんこっちゃない」
賢者「仕方ないわよ…私達みたいに子供がいるなら同じ親の苦労がわかるけど…」
僧侶「彼…童貞だもんね…」

3人は遠い目で天井を仰いでいた。
また、ゼクスもシャルルがようやく落ち着き、寝付いた為、玉座横のベビーベッドにシャルルを寝かせた。

魔王「ふぅ…やっと寝付いたか…」
僧侶「ごめんなさいね、うちの元勇者が…」
魔王「童貞なら仕方ない」
戦士「ところでお前んとこのチビは何歳なんだ?」
魔王「ん?あぁ、年齢は100歳だが、人間でいうところの6ヶ月位だな」
賢者「あら、それならまだまだママにベッタリな頃なのに…もしかしてシングルファザーなの?」
魔王「妻はいるが、何故か我にしか懐かんのだ。妻が抱くと大泣きする」
戦士「パパっ子かー、たまんねぇよなー!俺んとこも娘が3人いるんだがよ、嫁ガン無視で『パパー♪』って甘えてこられると、つい顔がほころんじまってなー(笑)」
魔王「確かに優越感はあるな」
戦士「だろ(笑)?でもよ、年頃になると『父ちゃん臭い』とか『恥ずかしいから近寄らないで』とか…色々言われてよぉ…正直、小さかったあの頃が本当に幸せだったぜ…(涙目)」
魔王「…想像すると怖いな」
賢者「でも男の子も色々大変なのよー?」
魔王「そうなのか?」
僧侶「そうよー、うちも男の子なんだけどね…」

……こうして魔王ゼクスは3人の育児の相談相手(人間)をゲットした。

~MAOU LIFE 1日目~ 終