「ねぇ?」
男性に声をかけられ、魔法が解けたかのようにフッと我に返った。
いつもと変わらない風景がそこにあった。
「あ、は、はい」
「キミ、この辺の子?」
「えっ、まぁ……」
この辺と言っても、この住宅街に家があるわけではない。
少し離れたマンションに住んでるけど、近所と言えば近所だから、そう返事をした。
「実は今日、引越して来たばかりで……散歩に出掛けたのはいいけど、道に迷っちゃって……」
男性はそう言って少し照れたように笑った。
あぁ、確かに、この辺は住宅が密集してるし、複雑な道も多い。
だから、この辺を知らない人なら道に迷うこともあるかも……。
「◯◯ってマンションなんだけど、わかる?」
「えっ?」
男性が言った◯◯って私が住むマンションの名前だ。
「わからない?」
「い、いえ、そのマンション、私が住んでるマンション、です……」
「ホント!?」
私はコクリと頷いた。



