「自分、学生時代は学校に馴染めず……大学出て就職したけど、仕事も人間関係も上手くいかず、仕事を辞めて……それからずっと引きこもりで……」
たどたどしく話し出す男。
私は男の話を黙って聞いていた。
「あの日、どうしても出掛けなきゃいけない用事があって……本当は、出たくなかったけど、思いきって家を出て……それで……」
「それで?」
聖が男にそう聞いた。
聖の方に顔をやると、少しイライラしているのが伝わってくる。
「それで……エレベーターが開いたら、あなたが乗っていて……」
男はそう言うと私の方をチラリと見た。
「絶対にキモイとか思われてるって……怖くて、足が動かなくて……乗るのを躊躇ってると、あなたが笑顔で、どうぞ?って……」
そんなことあったっけ?
男の話を聞いても何も思い出せない。
「降りる時も、ドアを開けてくれて……笑顔を見せてくれて……女性が自分に笑顔を見せてくれたことなんてなくて、あなたが初めてで……」
「勘違いしちゃったんだ」
聖がそう言うと、男は静かに頷いた。



