翌日、私は宣言通り寝坊をした。
あの彼はまだいない。

やっぱりたまたまだったかなー…

そう思ってすとんとまた同じ場所に座った。
数分後、ようやく電車が出る直前のベルの音が響いたとき、また隣にふっと誰かが座った。

ゆらゆらと揺れる頭が視界の端に映る。
彼だ。
微笑ましく思いながらまたイヤフォンを耳に挿す。
私はいつも通り、課題を取り出してやり始めた。

ちょうど片付けようとした瞬間、電車が大きく揺れた。
そのはずみでペンケースがばらばらと散らばる。
慌てて拾い上げようとしたら、隣からオレンジの蛍光ペンが差し出された。
さっきまで寝ていたはずの彼だ。

イヤホンを外して、お礼を言おうとした。

「いつも何聞きながら課題やってんの?」

眠たげな目をして小首を傾げる姿は小動物みたいで可愛らしかった。

「聴いてみる?」

イヤホンの片方を差し出してみた。
予想に反して素直に受け取り耳にあてがった。

「この人…俺も好き」

そう言ってゆっくり目を閉じる。
なんだかそれすら様になっているように見えた。

「君いつも眠そうだよね」

「君はいつも忙しないよね」

『いつも』というほどお互い知ってるわけじゃない。
でもそれがすんなり通るほど、どこか自然に思えた。