ちぐはぐ恋模様

部活後、帰宅すると既に家には誰かいた。
その人の気配はリビングではなく、その隣の小さな和室。
扉の右端に丁寧にスリッパが寄せられている。

「おかえり」

スッと和室が開き、ひょこっと顔をのぞかせたのは紛れもなく君だった。

「た、ただいま…」

数ヶ月経った今でもこの光景には慣れない。

小学校のとき、あれほどバカやってふざけていたはずの君が、そしてあれほど惹かれていた君が、毎日傍にいる。
そんな状況に浮かれないはずがない。

「深雪?」

いつの間にか立ち止まっていた私の顔をのぞき込む。
やめて、近づかないで…
だってもう、私達は『家族』なんだから。

「なんだい?お兄ちゃん」

いたずらっぽく、そう笑う。
君も慣れないのは同じだろう。
少しだけ眉をひそめた。
知ってるよ。
それは君が緊張したり、照れたり、嬉しかったりする時の表情だ。

「なーんて、ね?それと同じだよ」

きっと君はこの事を理解できないんだろうね。
君と同じように慣れてないだけなの。

「毎日、そうやって人をからかって遊ぶなよ」

困ったように苦笑いしながら、頬より少し下の首との境目をポリポリと掻く。
変わらない。
平静装うときの癖だね。
からかわれたことに対して恥ずかしいんでしょ。
『まぁ動じてないけど』って言いたいんでしょうけど。
全部お見通しなんだよ。