なんでだろう?

これは彼の癖なの?
ただ、私を女と見ていないから?

複雑な表情のまま笑みを浮かべた。

そんなことに気づかない五十嵐さんは

「来週の金曜、8時忘れるなよ」

撫でていた私の頭をポンポンと数回叩いて、寒そうに身を縮めスラックスの両ポケットに手を突っ込んで大通りに向かって歩いて行った。

私は、その背中が見えなくなるまで複雑な気持ちのまま見送る。

誰もいないアパート前で、モヤっとした気持ちを振り払うように握り拳を振り上げあーと叫んでから階段を駆け上がり部屋のドアをガチャリと開けると、玄関前で志乃がニヤニヤしていて気持ち悪い。

「なんなの?」

「別に…ただ、遅かったなって思ってさ」

ウフフと笑う志乃にイラつくのは許してもらえるかしら?

「さっきまで落ちてたくせに、来週、佐藤さんと会えるからって浮かれてるんじゃないわよ」

キツイ口調にも志乃は笑みを崩さない。

ダメだ、完全に舞い上がってる。

「2人きりで会えば…」

「えっ、ダメ。2人きりなんて無理。佐藤さんにホテル誘われたら、大勢の中の1人ってわかってても好きだからエッチしちゃうもん。杏奈がいてくれたらそんな雰囲気にならないでしょう⁈」