「それで、何があってそう不機嫌なの?」

「その後よ。彼女になれると思っていたのに、あの男…」

ギュッと拳を握りしめる志乃。

「『志乃ちゃんとは相性バッチリだったよ。また、機会があったら誘うね』って言って頬にキスをされてホテルの前で別れたの」

ズダズダに志乃のプライドが傷ついただろう。その時の志乃を想像するとかわいそうになっていた。

「じゃあ、またねってなに?連絡先も教えないで次があるような言い方って酷くない?そんな優しい嘘つかなくてもはっきり一回だけの関係だって言えばいいのに……」

ボロボロと大粒の涙を流し出した志乃。

「結構、本気だったのになぁ…」

ボソッとつぶやいて、無理して笑う姿が痛々しかった。

やっぱり、そういう男だったんだよと心の中で思っていても、傷ついている彼女には言えなかった。

「で、杏奈は五十嵐さんとどうなったの?」

さっきまでの悲しげな表情はどこへ。

「だから、なにもないって…ただ、ここまで送ってくれただけ」

彼も、次会う約束をしたわけでもないのに『じゃあ、またな』って期待を持たせる優しい嘘をついて帰って行った。

大人の男って残酷…