「……も、もともと素直だし」

「フッ…そう言う事にしておいてやるよ。じゃあ、またな」

頭の上にポンと手のひらを乗せてから、私に階段を上がるように顎で指図する。

なぜか、くすぐったいような感覚に口元を綻ばせてしまう。

クスッと笑う五十嵐さんにもう一度顎で指図され、照れくささを隠すように小走りで階段を駆け上がった。

振り返ると、五十嵐さんは来た道を帰って行く。

えっ…
同じ方向じゃなかったの⁈

そう思った瞬間、思わず

「気をつけて帰ってね…」

後ろ姿に叫んでいた。

彼は、振り向きもしないで片手を上げて返事をする。

私は、雨のかからないギリギリのところから彼の背中が見えなくなるまで見送った。

部屋の中に入っても、なぜか表情が締まらない。

ふと見ると、部屋の隅にある姿見には頬を赤らめ、にやける自分が映り込み、鏡の中の自分を戒めていた。

《なに、のぼせているの?
好きは好きでも憧れにしておきなさい。

これ以上、近づくのは危険よ。
後悔するわよ。

あんたなんか相手にされないんだから、わきまえなさい。》

あなたなんかに言われなくても、わかってるわよ。

そう呟いていた。