「客?どこにいるんだ?ここがどんな店がわからない馬鹿ップルしかいないだろう…その馬鹿ップルに当てられぱなしじゃ売上にもならない。それなら愛する奥さんをデートに誘って有意義な時間を過ごそうと思って何が悪い」

確かに飲食店に来ているのに注文もしないで2人の世界に入っていれば、そう言われても仕方ない。

「もう、恭平くんだけならともかく、杏奈ちゃんもいるんだからそこまでにしてあげないと…ごめんなさいね」

「…いえ」

「じゃあ、何か注文お願いね」

ウフッと笑う美鈴さんは経営者の妻らしくそこはしっかりしている。

五十嵐さんも返す言葉が見つからないようで、勝ち誇るマスターから視線を外しメニューを見始めていた。

メニューが決まり、注文をお願いすると五十嵐さんに腕をひかれ奥のボックス席に移動する。

「これもデートって思わないか?」

「うん…色々考えてくれているのにごめんね」

「いや、お前といれれば俺はそれでよかった。お前の気持ちもわからなくて1人にさせて悪かったよ。俺の中ではお前を抱いた時点で付き合ってるつもりになってたんだが、お前はそうじゃなかったから不安だったんだよな?」

なんだか嬉しくて涙が止まらない。