「後悔してる。」


徐に呟かれた言葉。


「君を、巻き込んだこと。」


そう言って彼の手が頬を撫でた。


「俺なんかに捕まらなければ、もっと幸せになれたはずなのに。」


ごめん、と呟いた彼の手を握った。



「そんな未来は、僕の前にないよ。僕の未来には、貴方が必要だから。ねぇ、後悔なんて必要ないんだよ。」


慰めなんかじゃない。
僕の本心。

「みんなの前で堂々とすることも、子供を授かることも出来ない。後ろ指を差され、白い目で見られる。普通の幸せを俺は君から奪ってしまった。」
「違うよ。僕が貴方との未来を選んだんだ。」



悩まなかった訳じゃない。
それなりに苦悩した。
男である僕が男である彼に抱く感情を、何と呼べばよいのか……。
何度も何度も消そうとして、それでも捨てられなかった。

世の中の摂理に反することでも……
それでも僕は、今目の前にいるこの人との未来を望んだのだ。


「幸せは、人から決められるものじゃない。自分で決めるもの。ねぇ、聞いて。僕は今、とても幸せ。」


彼の目を見て微笑んだ。

そうしたら彼は静かに涙を一筋流した。