空が優しい夕焼けに染まり、作りかけの綿あめみたいな雲が流れている。佇んだような静かな海。そこからの風は心地よかった。
「きれー」
ふっと笑うと、わたしの手をとった。
「つめたっ」
冷たいけど、ちょっと走ったから、気持ちいい冷たさ。
「今、ひんやりして気持ちいいとか思ってんだろ?」
「お……思っていません。離してよ」
「よろよろしてるから、杖変わりだ。ばあさん」
わたしの手を離すと階段を下りて、足元に落ちていた流木を拾って差し出した。
「俺様くそじじい様が使ったらいいと思いますけど」
「それで敬ってるつもりか? くそなんて女は言わねーだろ」と、ヨウは杖をバットに変えて素振りをする。
「誰がわたしをそうさせてるんだか」と嫌みを言った。



