ぼっちな彼女と色魔な幽霊


壁を向いて立てかけられていたキャンバス。

ふっと手にする。油絵だ。

興味を持ってしまったのは、朝に見せられたかめちゃんの絵本のせいかもしれない。

赤い髪をした女の子……というより、足である部分が尾ひれになっていて、そうこれは人魚だ。岩に座り、仰ぎ見ている。

「綺麗」

だけど全体的に暗いタッチで、きっと青黒い海の底にいるのだろう。そこで人魚がひとり泣いているみたいだ。

童話の人魚姫が人間の王子に恋をして人間になりたいと悩んでいる……そういう情景にも見てとれた。

気付くと、後ろからヨウが覗きこんでいたから驚いた。

「うわっ」

ヨウはわたしを気にすることなく絵を凝視している。

「これ?」と早々にお目当ての絵を見つけてしまったのかと、思わず訊いてしまった。

「この人魚姫の絵、知ってる」

「嘘! 本当に? よっし成仏できるね! 描きたいんでしょ? 持って帰って家で描く? って、家に油絵の絵の具ないな。勝手に借りていっちゃおうか?」

なんて喜びのあまり言葉がスラスラ出る。ついでに悪い提案をすると、ガラリと扉が開いて人魚姫の絵を慌てて落としそうになった。