「ちょっと……やめてよ」
ぶっと吹き出すと、「ほらやるぞ。ひな公。俺の言うことには逆らえねーだろ?」と、悪魔の顔つきに変わった。
「な……なんなの?」
「少し優しくしておかねーと、言うこと聞かなくなるかと思って」
「それのどこが優しさだっ!」
不覚にも無駄にイケメンだから、ドキドキしてしまったじゃないか。
バカだ、わたし。
適当にかけてあるキャンバスを一枚一枚見ていくヨウ。まだら模様の肌の女の子の油絵をじっと見たけど、元の場所に戻した。
仕方なくわたしもヨウの真似をして、窓際のほうから見ていく。
埃が被った布を怯えながらとると、粘土細工みたいなもので作った手だったり、がっかりしながら。
「幽霊になると、好き放題できて楽しそうですね」と、嫌みを言った。
「本当だな。なんか一回死ぬと開き直れるもんだな。人間、我慢しなくていいって感じになれる」
「はっ?」
「ひな公しかいないから、なにしても大丈夫だろ?」と、笑った。
「犬じゃないんだから、公とかつけて呼ばないでよ」
もう適当に探したふりして帰ろう。
というか、どういう絵なのかもわからないし。
想像するのは女の子の絵だってことだけど。
そんなの沢山ありそうだし、油絵だって上描きされたり、いらない水彩画だって捨てられているに違いない。
だから残っている可能性が少ない。
ヨウはいつの時代の人なんだろう。最近の男の子って感じはするけど、都市伝説になるくらいだからけっこう年上なのかもしれない。



