「ありがとうございました」とだけ言って美術室を出た。
「美術の顧問は?」
ヨウが言う。
「うちの担任。新任だから、たぶん何も知らないよ」
「じゃあ聞いても意味ねーか」と呟いた。
これでわたしの任務は終了と思っていたのに、ヨウはわたしの腕をぐぃと引っ張る。
美術準備室の扉には、『閉めるの禁止』と張り紙がされていたが、気にする様子もなくヨウは開けた。
「ちょっと何すんの?なに?ここでもしや、さっきの都市伝説の男の子が描いた絵でも探せって言うの?」
「お前、意外に頭の回転速いな」と、顔を輝かせた。
しまった。言わなきゃ良かった。
「……帰ります」と、壁を背にゆっくり横歩きで逃げようと試みるわたし。
だってここ準備室と言うけど、けっこう広いし、探すのは容易じゃないってことくらいすぐにわかる。
「待てよ」と、ヨウが言う。
ヨウは壁に右手をついて、逃げ出そうとしたわたしを止めた。
「俺には、お前にしかいないんだ。ひな子」と、急に真面目な顔で言うから、ドキリとした。



