『……太宰さん』と言ったわたしが浮かんだ。
葛西さんじゃなくて太宰さんって言ったんだよ、なんてどっちにしろ言えない!
違うはずなのに、なんだか後ろめたい気持ちを刺激するのはどうしてだろう。
「すごい思いつめた表情してたから、気になって。辛い恋でもしてるのかなって」
ぶんぶんと首を振った。
「んじゃごめんね。今日ありがとう」と日誌を持った手を軽く上げる。
「ううん」
二嶋くんは、教室の入り口まで行くと立ち止まり振り返った。
「あのさ、西宮さんのこと名前で呼んでいい?」
「えっ?」
「下のが呼びやすいから」
「……うっ……うん」
頷くと、二嶋くんは教室を出て行った。
なんかわたしドキドキしてる。なんだろう。
それなのに、「おい」と聞き覚えのある不機嫌な声が聞こえた。



