「いつもなんの本読んでるの？」
椅子の背もたれに腕をのせたまま、二島くんは訊く。
「えっ……色々読むけど」
「今日は何読んでたの？」
「えっと……太宰治」
「なんか聞いたことあるかも」
「教科書に載ってなかった？走れメロス。それ書いた人」
「エロス？」
「メロスだよ」
本当に聞き間違えが多いんだなって笑ってしまう。
「本いっぱい持ってるの？」
「んー。そうでもないよ。たまに図書室で借りることもあるし」
「そういえば、この前も来てたもんね」
恥ずかしくなるのは、独り言を喋っていたと思われているから。
だけど、そんなこと覚えていないみたいに、「つうかさ、なんか面白い本あったら貸してくれない？」と言うから驚いた。
