二嶋くんは、号令だけかけて後は何もしなかった。黒板消すのも移動教室で電気を消すのもわたし。
でもいちばんやりたくなかったのは、号令だから丁度良かった。
だって、わたしの声でみんなが動いてくれるのかさえ、自信ない。
怒涛のネガティブパラダイスだ。
4時間目の授業の古典。ちょっと眠くて船を漕ぎそうになる。
ふっと教室の端に制服姿の男子が立っていた。
ヨウだ。
いなくなったと思ったから、驚いた。
何してんのあいつ?
本当にわたししか見えないのかなと、俯きながら視線でヨウを追う人を捜す。
だけど驚いてたり、恐がっているような表情の子がいない。
ヨウは、段々とわたしの席へ近づいてくる。
目を合わせないように教科書に視線を落とす。
ヨウは、わたしの目の前まで来ると開けっ放しにしていたペンケースからシャーペンを取り出した。
わっ。
思わずヨウの手に触れる。
だって誰かから見たら勝手にペンが動いた怪奇現象だ。
というか用事があるなら、口で言えばいいのに。どうせ周りには聞こえないんだろうし。絶対意地悪したいだけだ。
ノートの端に、お昼、西校舎の屋上に弁当持ってこいと書かれた。
えっ?と、思って顔をあげるとヨウの姿はもうなかった。



