「だから、嬉しかったの。
領にね、痣のこと気にしないって言われて好きになってもらえて。
人魚の童話の話をしたときもね、そんな話と一緒にすんなよ、似てないよって言ってくれて。
嬉しかったな。
でもおかしいよね。
別れたら、今度は領に必要とされない自分は何かが足りてないんだって考えちゃって。
そう思って生きてたら、ずっと人魚の娘のままなのにね」
言い切って息を吐いた。気持ちを吐ききったみたいに見えた。
「あっあの……先輩、わたしも先輩が人魚の娘に似てるなんて思えないです。
わたし実は先輩と中学が一緒でその頃から目立っていてみんなの憧れって感じでしたから。
いつも誰かの中心に生きてるように見えてました。
今だって変わらないです。
わたしのやっぱり、憧れです」
そっか、と言う。
「ありがと。
さっきの話、信じようかな。
領に大事だって思ってもらえてたのなら、やっぱりそれは嬉しいし。
嬉しいことは信じたほうがいいよね」
「……」
「領、早く目が覚めないかな。出来ること、あればいいのに。なんだってする」
微笑んだ。先輩はずっときれいだ。なによりもなによりも。



