眠気を感じたのは2時間目の数学の授業の時だった。


学校内でも怖いと噂の男の先生が教卓に立ち、難しい公式を黒板に書いていく。


あたしはそれを必死に書き写していたのだけれど、さっぱり頭に入ってこない公式は次第に子守唄へと変わって行った。


瞼が重たくなってきて、目を開けていられない。


時折完全に目を閉じてコクッと船をこいでは目を覚ます。


それを何度も繰り返していた。


授業中に寝ている生徒は他にも何人か見受けられるけれど、あたしは今まで一度だって授業中に眠ったことはなかった。


そんなあたしが眠い目をしているのだから、先生からしたら目立っていたのだろう。


授業が終わる数分前。


突然数学の先生があたしの机に前に立った。


その威圧感にあたしの目は完全に覚めてしまった。


恐る恐る見上げると、先生と目が合う。


「そんなに授業がつまらないか？」


抑揚のないその声にあたしは思わず生唾を飲み込んだ。


先生は完全にキレている。


「いえ……」


あたしは喉に張り付いた声を無理やり絞り出してそう言った。


「そうか。俺の授業は好きか？」


「も、もちろんです」


あたしはひきつった笑顔で返事をする。